ヴァンパイア夜曲
…なんなんだ、この男は。
誰に何を言われたのか知らないが、私はシドの血が不味くて飲まなかったわけじゃない。
シドはそれを気にして、こっそり私の好きなお菓子を大量に食べて、血を“私好み”に変えようとしたらしい。
頑張る方向が間違っている。
“全然俺に構わなくなりやがって…”
どきん…!と、心臓が音を立てる。
最悪だ。この悪魔のような神様冒涜男にときめく日が来るなんて。
「…シドの血は、不味くなんかないよ。」
「!」
「もしかして、私が吸血しないのは自分の血が不味いからだと思ってたの?」
ぴくり、と肩を震わせるシド。
自分が勘違いしていたことに気づいた彼は、少し動揺したように目を泳がせて、私から視線を逸らした。
「…バカ、違うなら早く言え!……変な気を使わせんな……!」
どうやら、急に恥ずかしくなったらしい。
私の真意を察せない鈍さがもどかしいが、こんな“健気”な姿を見せられたら何も言えなくなる。
「…シド。私のために嫌いな甘いものを食べてくれてたんだ…?」
「…我慢させて飢えた挙句、スティグマになられてもうぜえからな。」
今さらそんなことを言ったって遅い。
そんな見え透いた照れ隠し、こっちからしたらバレバレだ。