ヴァンパイア夜曲
ーーだけど、私も相当狂っている。
私のためにここまでしてくれたシドが、“愛しい”なんて。
お菓子を食べたって、急に血の味が変わるわけがない。…でも、未だに自分の血が甘くなったと信じて疑わないこの男が可愛く思えるなんて、もう重症だ。
そっ、とシドの首筋に触れると、彼はぴくり、と小さく震えた。
大人しくされるがままになっている彼は、まるで人に懐いた大きな狼。艶のある漆黒の髪が月明かりに照らされている。
きっと、シドは知らないんだ。
私が、どんなに緊張して貴方に体を預けているのか。…どんな気持ちで、貴方に触れられているのかを。
「…まさか、俺に遠慮してたのか?」
「え…?」
「?違うのかよ?」
あぁ、もう。
どこまで鈍いんだ。
「シドに女心なんて、一生当てられないわよ。」
可愛くない言葉の裏に忍ばせた恋情。
本当に、どうして彼に惹かれてしまったんだろう。
神様だって、それは教えてくれない。
ーーあぁ。
貴方の肌に突き立てた牙を通して、私の想いが伝わればいいのに。
かぷ…、と遠慮がちに噛み付いた私を、シドはいつものように優しい腕で抱き寄せたのだった。