ヴァンパイア夜曲
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「ねぇ。昨日、シドと何かあった?」
「けほっ!こほっ、けほっ!!!」
宿屋の食堂。
スープを飲んでいた私は、ランディの言葉に思わず咳き込む。
「な、なんで…?別に何もないけど…」
「いや?昨日、部屋に帰ってきたシドがやけに機嫌よかったからさ。ベッドも僕に譲ってくれたし。“いいこと”でもあったのかと思って。」
ひそひそと話す私たちの目の前で、無言でパンをかじる寝起きのシド。いつも通り低血圧のせいで人相は悪いが、あれは機嫌がいいのか?
どうやら、自分の血が不味くないと知って心の傷が塞がったらしい。
表には出さないが、他人の感情に聡いランディが気づくくらいにはバレバレなのだろう。
(…悔しい。…自分の気持ちに気付いた途端、シドのあの無愛想な態度そのものが可愛く見えるなんて…、不覚……!!)
俗に言う“ツンデレ”というには、彼はツンのレベルがぶっ飛んでおり、傍若無人で普段は優しさのカケラも無い。しかし、色眼鏡を通した私からすれば、何気ない彼の仕草も今までとは違って見えるのだ。
「あ、いたいた、レイシアさん…!」
と、その時。
宿屋の主人がぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる。
私とランディが挨拶をすると、彼は驚いたように声をうわずらせて言葉を続けた。
「食事が終わったらフロントまで来てくれませんか?レイシアさん宛てに荷物が届いていまして。」
「?“荷物”?」
「あぁ。それが大量で、運んできたトラックごと外に置いてあるんですが…」
「「トラック?!」」
私とランディがつい声を上げたその時。
送り主を察したシドが、怪訝そうに目を細めたのだった。