ヴァンパイア夜曲
しかし、そんな私の心境を知らないシドは私の答えが予想外だったようで、少し動揺しながら私に歩み寄る。
「あのなあ、この先ローガスの居城に近づくってことは自ら危険に向かっていくってことだぞ?お前、それをちゃんと分かってんのか?」
「大丈夫よ。だって、シドがいるんだから。」
「!」
「私の護衛をしてくれるんでしょう…?」
もう後には引けない。はぁ…、と大きくため息をつくシド。
私を見つめる碧眼は諦観にも似た瞳で、“本気か?”と言わんばかりだ。
彼は諭すような口調で私に続ける。
「だがな…。そもそも、この街にはヴァンパイア用の血パックや食料もあるってお前の兄貴も言ってただろ?だから、別に俺に付いて来なくたって…」
「…やだ。」
即座の反論に、一瞬で、シドの眼光が、“あ"…?”と鋭くなる。
しかし、次の瞬間。私の一言で彼の表情がガラリと変わった。
「血パックなんて、飲みたくない。…シドのがいい。」
「ーー!」
見たこともないほど目を見開くシド。
はっ!とする私。
つい溢れ出た本音に、時が止まる。
(あれ?もしかして私、相当恥ずかしいことを口走ったのでは…?)
なんとなくそわそわした空気が漂う。
ぽろり、と告白するよりまだマシだが、これはもう似たようなものだ。気まずい沈黙が流れる中、視線を逸らした私に、ぼそり、と彼の低い声が届く。
「……駄々っ子かよ、お前……」