ヴァンパイア夜曲
ずきり、と痛む胸。
しかし、呆れられたかと思ったが、くしゃり、と前髪をかきあげた彼は、こうなることを分かっていたように小さく呟く。
「…ったく。…俺も大概、お前に甘い。」
(え…?)
それ以上は何も言わず、スタスタと宿に戻っていくシド。
てっきり、“お守りはもう御免だ”くらい言われると思っていた。
「いいの…?!」
彼の背中に問いかける。
すると、ふいっ、とこちらを見たシドは、わずかに碧眼を細めた。
「…俺の血に溺れて、兄貴に怒られても知らねえからな。」
(!)
「うん…!!」
こちらを振り向いた彼の表情が、心なしか嬉しそうに少し緩んでいたのは気のせいだろうか。
感情の読めない彼のことは、私にはまだ分からない。シドに女心なんて一生当てられないと言った私も、男心を理解するのは至難の技らしい。
「…ほんと。素直じゃないね、彼は。」
ーーこうして、新たな三人旅のページがめくられた朝。
ふっ、と笑ったランディが、遠ざかっていくシドの背中を見つめて呟いたのだった。