ヴァンパイア夜曲
門前払いをくらった私たち。
確かに、一国の王ともあろう者がたかが旅人のワガママのために時間を作ってくれるなんて夢のような話だ。
私の兄のように、ノスフェラトゥの幹部の肩書きがあれば別の話だろうが。
しかし、こっちだって長い間旅を続けてきたのだ。敵の居城を目の前にしてこのまま引き下がるわけにはいかない。
すると、嫌な予感を胸に、ちらり、とシドを見たランディが低く尋ねる。
「…シド。まさか、無理矢理にでも王を脅して通行状を書かせようだとか思ってないよね。」
「それしかねえだろ。強行突破で不法侵入くらいは許される…」
「…わけないでしょ、バカだなあ!牢屋にぶち込まれるよっ!僕、道連れは御免だからね…!」
ぎゃんぎゃん喧嘩を始めてしまった旅仲間たちに呆れていると、ふと、私の視界に関所に掲げられた国旗が映った。
高級そうな赤い生地に金色で刺繍の施されたそれはどこか見覚えがあり、私は、ゆっくりと刻まれた文字を目で追っていく。
「…“ベネヴォリ”…」
ぽつり、と読みあげると同時に、頭の奥に押し込めた記憶のカケラがキラリと光った。
「あの、すみません。ここは“ベネヴォリ地方”なんですか…?」
『ん?あぁ、そうだよ。ここは、ベネヴォリ城に住まう純血のヴァンパイアのセオドルフ王が治める土地なのさ。』
門番の返事に、予感が確信に変わる。
ーーどおりで、どこか見覚えがある国旗だ。
「2人とも!このまま、ベネヴォリ城に向かおう。」
「「?」」
「きっとセオドルフ王は、私たちに会ってくださるわ。」
じゃれあっていた2人が、私の言葉にぴたり、と動きを止める。
ごくり、と喉が鳴った私は、どくどくと胸が騒ぎだした。
「…“10年前の約束”が、まだ生きていたらの話だけどね。」
私の言葉に、旅仲間の2人は目を見合わせて、ぱちり、と瞬きをしたのだった。