ヴァンパイア夜曲
「「「!」」」
男の声に私たちが動きを止めたその時。ガチャ!と馬車の扉が開く。
ーー天然パーマのような癖のある茶髪に、貴族らしい小太りな体。お世辞にもイケメンとは言えないどこか愛嬌のあるその顔には見覚えがあった。
「レイシア…?本当にレイシアなのか…?!!!」
馬車から降りて駆け寄ってきた青年は、目の前で立ち止まって私を見つめる。
きゅっ!と私の手を取った青年につい、驚いて動揺すると、ガッ!と青年の腕を掴んだシドが威嚇するように低く唸った。
「何触ってんだ、てめえ…!」
「ひっ!」
怯える青年に、掴みかかる勢いのシド。
私は慌ててシドをなだめる。
「っ、やめて!殴っちゃダメよ!この人は知り合いなの!」
「は?」
シドが眉をひそめたその時。青年がビクビクしながらも声をあげた。
「き、貴様こそ、レイシアの何だ!“僕のフィアンセ”にベタベタくっつきやがって…!」
「「!!!」」
戦慄するシドとランディ。
言葉の意味が脳まで達しない。
「“僕の”…?」
「“フィアンセ”だって?!!」
無意識に声を上げる彼らから、私はすいー…っ、と視線を逸らしたのだった。