ヴァンパイア夜曲
こちらに歩み寄って10年越しの再会に目を細めたセオドルフ王に会釈をする私。
すると、未だに信じられない、といった様子の王は、まじまじと私を見つめて呟いた。
「…夢でもみているようだ。この城に来たルヴァーノ君から“妹は死んだ”と聞いていたんだが…」
「!兄がここに来たんですか…?」
予想外の言葉に目を見開く私とシド達。すると、セオドルフ王は顎に手を当てて訝しげに言葉を続けた。
「あぁ。5年ほど前にノスフェラトゥの軍服を着たルヴァーノ君が挨拶に来てな。レイシアさんが亡くなったからと言って、政略結婚の破断を申し込んできたんだ。…彼から薔薇の廃城の全てを聞き、胸が痛んだよ。」
どうやら、兄は私が知らないところで政略結婚の相手方にしっかりと話をつけにきていたらしい。
セオドルフ王は、懐かしむようにその光景を話している。
“…そうか。両親と家臣をスティグマに…。辛い思いをしたね…。……それで、妹の姫君は…”
“…!レイシアは……”
「君の事を聞くと、ルヴァーノ君は言葉を詰まらせてはらはらと泣いていたよ。…あの時の彼は可哀想で見ていられなかった…」
確かに、その先を濁せば王が私も事件の夜に死んだと勘違いしていてもおかしくはない。
一応、嘘はついていないという屁理屈は通じるようだ。
(お兄ちゃんは、私が生きていることを知っていたはずなのに…)
一方、シドとランディは兄の思惑に気がついたらしく、目を細めてぽつり、と呟く。
「…あのシスコンヴァンパイア、“図った”な…」
「…確かに、あのルヴァーノさんはこの王子とレイシアちゃんの結婚を許しそうにないもんね。」