ヴァンパイア夜曲
ーーと、その時。こほん、と咳払いをしたセオドルフ王が、ちらり、と私の隣に立つ男たちへ視線を向けて口を開いた。
「…で。彼らは見かけない顔のようじゃが、レイシアさんの連れかね?」
「!」
どきり、とした。
旅仲間、といえば簡単だが、相手は由緒ある純血のヴァンパイアの王。
昔のツテを使って会った手前、仮にも息子と婚約を結んでいた姫が見知らぬ男と旅をしているなんて引かれるかもしれない。
ましてや、専属で血を貰っているなんて口走ったあかつきには、兄にバレた時のように破廉恥扱いされる可能性もある。
ーーすっ。
その時、ランディがふいに私の前に進み出た。ぱちり、とまばたきをすると、彼はにこりとしたポーカーフェイスのまま深々と頭を下げる。
「ーー挨拶が遅れて申し訳ございません。僕はランディ。そして、こちらの黒コートの男がシド。…僕らは、レイシア姫の“従者”をさせていただいている者です。」
「「“従者”ぁ?!」」
思わず声を上げる私とシド。
“俺はこいつの従者に成り下がった覚えはない”とばかりに反論しようとするシドを抑えるランディは、爽やかな笑みのままだ。
確かに、婚約者の親族の目を欺くには、“主人と従者”という関係を貫いたほうが賢明だろう。
「ほぉ、従者であったか。いや、私もそうではないかと思っていた。清純なレイシアさんが素性の知れぬ男と道中連れだつわけがないものな。」
ランディの機転のおかげで彼は納得したらしい。悪女だなんてイメージがつかなくて助かった。
そして、関係を怪しまれなくなった頃。セオドルフ王は目を細めて私に尋ねる。
「ところで、レイシアさんはなぜここに?ただ顔を見せに来たのではないだろう?」