ヴァンパイア夜曲
ついに、この時が来た。
ごくり、と喉を鳴らした私は、覚悟を決めて話を切り出す。
「ここには、お願いがあって来たんです。…単刀直入に申し上げます。セオドルフ王。あなたのお力で、国境の関所を通る権利を私たちに頂けないでしょうか?」
「関所だって…?」
私の返答は、想像を超えていたらしい。
思ってもみない頼みに、セオドルフ王は動揺して顔をしかめた。
「なぜ、東に進む?あの先は樹海だ。君が行くような場所ではないだろう。」
「いえ…。私たちは、向かわなければならないのです。ローガスの居城を叩くために。」
「…!」
これまでの経緯を話した私。
敵討ちのために本拠地へ乗り込む算段を伝えると、セオドルフ王は急に態度を一変させて腕を組む。
そして、「ううむ。」と唸った彼は静かに答えた。
「…悪いが、それは出来ない。今は破棄された話だとはいえ、レイシアさんはせがれの婚約者であったお方だ。君を、いつ命を落とすかもわからない場所へやすやすと送り出すわけにはいかん。」
(…!)
「それに、もし、危険に巻き込まれて命を落とすようなことがあれば、私は命がけで君を守った両親に顔向けが出来ない。」