ヴァンパイア夜曲
低く唸るシドをなだめつつ足を動かしていると、やがてふわり、と視界が曇った。
(…!…“霧”…?)
樹海に立ち込める濃霧がリスターノから流れていることは本当らしい。
だんだん、頬を撫でる空気が湿ってきた。
不安を煽るような霧に身震いがしたその時。ふと、目の前にレンガの壁が現れる。
目細めたランディが、ぽつり、と呟いた。
「…本当に“ゴーストタウン”だね…」
ーー針の止まった広場の時計。
むき出しのコンクリートに、塗装の剥がれた家の壁。寂れた空気が辺りに立ち込めている。
まさに、この町は“死んでしまった”らしい。そこに住む人の影はなく、最後の一人が亡くなる時にはすでに町の機能は停止していたようだ。
ーーコツ。
一歩、町に足を踏み入れると、そこは不気味なほど静かだった。
窓から覗く家の中は生活の跡が見え生々しく、かつて、本当にここに人がいたということが伺える。
(…あ…)
その時。ふと、私の視界に“あるもの”が映った。
それは、ひときわ大きな建物の屋根に光る“十字架”。もう錆びてしまって廃れてはいるが、その象徴は神に存在を訴え続けるかのようにそこに飾られていた。
(あそこは…“教会”かしら…)