ヴァンパイア夜曲

無意識に進む足。

扉へと伸ばした腕に力を込めると、ギィ…、という軋む音とともに重い扉が動き出した。

その先は、まさに私の育った修道院によく似ていて、幼き日の記憶が蘇る。

しかし、割れたスタンドグラスはほこりまみれで、灰色の女神像はどことなく悲しげだ。


「…どうやら、この町の教会は、ヴァンパイアの出入りを許していたようだね。」


ふと、ランディがそう呟く。彼の手にあるのは、煤けた礼拝者のリストであった。

結婚式以外では吸血欲の芽生えたヴァンパイアは教会に入ることが許されないが、ここはヴァンパイアの町。信仰深い人々は、熱心に通っていたようだ。


ーーキィ…


さらに奥へと続く廊下への扉を開けると、そこは居住スペースになっていた。聖職者はここで暮らしを共にしていたらしい。


(…ん?)


その時。ふと、机の上の小さな本棚に目が止まった。

賛美歌の歌集や淑女の心得のような見慣れた本にまじり、一冊だけ雰囲気の違う冊子が挟まっている。

手にとって埃を払うと、表紙には“ダイヤリー”と綴られていた。


(“日記”…?)


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