ヴァンパイア夜曲
かつて、ここに住んでいた者がしたためたものらしい。プライベートを覗くのは何となく悪いことをしているような気分だが、私はつい好奇心に駆られてページをめくった。
“4月6日。晴れ。
今日も気持ちのよい1日。礼拝に来る町の人たちに神のご加護がありますように。”
一人称と筆跡からみて、この日記の主は“女性”のようだ。
彼女はこの教会のシスターだったらしい。
“5月10日。晴れ。
今日も、“彼”が来ていた。熱心な青年だ。
悩み事でもあるのだろうか。”
“5月18日。晴れ。
初めて“彼”と言葉を交わした。想像よりも低い声。
端正で穏やかな“彼”は、町でも人気があるようだ。”
ページをめくっていると、ある時を境に“彼”という文字が増えたことに気がつく。
この女性は、“彼”に恋をしたのだろう。“彼”と会った日はいつもより文が長い。
“7月20日。曇り。
初めて、“彼”と二人で会った。身分を忘れた時間。ヴァンパイア同士であっても、純血が隔たる。私が、普通のヴァンパイアであればよかったのに。”
(…!)