ヴァンパイア夜曲
そこに綴られていたのは、“悲恋の叫び”だった。彼女は、純血のヴァンパイア。胸を打たれる文字に、どきん、とする。
“8月6日。雨。
院長様から、婚約者を紹介された。純血の彼は私にはもったいないほどの人。
だけど、“彼”が忘れられない。知られたくない。”
“8月30日。曇り。
夜、“彼”が訪ねてきた。二人で教会を抜け出した。初めて、“彼”に血を渡す。
今日のことは、誰にも言えない。院長様にも、純血の彼にも、妹にも。
二人だけの秘密が一つ増える。”
しかし、次の瞬間。
一つの恋愛小説を読んでいるかのような幸せな気分に浸る私の目に飛び込んできたのは、思いもよらない結末だった。
“9月3日。雨。
純血の彼が教会に駆け込む。
“彼”が亡くなったとの知らせ。
ただ、ただ、信じられない。
レクイエムすら歌えない。“彼”は町から消えていた。
なぜ…なぜ…”
(…!!)
なんとも言えない気持ちが込み上げた。
この女性の想い人は、噂の伝染病で亡くなったのだろうか。しかし、引っかかるのは〝“彼”は町から消えていた〟の一文。