ヴァンパイア夜曲


ーージャキ…!


セーフティーを解除するシド。

魔法石の込められたリボルバーが、ガチャン!と回る。

そして軽く唇を噛んだシドは、意を決したように元来た廊下へ続く扉を蹴破った。


ーーガァン!!


強行突破と共に拳銃を構えるシド。

しかし、礼拝堂へ飛び込んだ私たちが目にしたのは、予想だにしない光景だった。


♪〜♫♩♪〜♬〜♪♩♪


ーー鳴り響くオルガン。

そこに掛けていたのは、美しい女性。

どこか、写真で見た彼女の面影があるが、全くの別人らしい。

スティグマの類かと思っていたシドとランディは、華奢なシルエットに、つい動きを止めた。


ーーしぃん…


鍵盤から離れる細い指。

ぴたり、と止まった音に、はっ、と息が止まる。

ここに、“人”がいるはずがない。

だが、あまりにも美しく清廉な彼女に、私たちは武器を向けることさえ忘れたのだ。

真っ白なワンピースを着た彼女は、ふっ、と顔を上げる。その瞳に囚われた瞬間、彼女の唇が、ぽつり、と言葉を紡いだ。


『…ティアナお姉さま…』


(!)


ーーシュン…!


まばたきの間にオルガンの椅子から消え失せる彼女。気付いた時には、私の目の前に立っている。


「!レイシア!!」


とっさに声を上げるシドだが、彼女は身動きの取れない私を、そっ、と撫でた。

感触のない指。

透き通る体。

透明な彼女は、危害を加えるつもりは一切ないらしい。


『…お姉さまじゃ、ない…』

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