ヴァンパイア夜曲


(…あ……)


ーー穏やかな風に吹かれる黒コート。

すらりとしたその佇まいは、見惚れるほどカッコいい。


(…なんか、少しだけ気まずいな…)


昨日、彼を追い出したきり、一言も会話を交わしていない。つまり、シドの言葉の真意さえ、はっきり確かめられていないのだ。

一方、彼はいつものポーカーフェイスを貫いている。まさか、昨日のことは夢だったのだろうか。

無意識に首元に伸びる腕。

やはり、彼の残した跡を触ると少し痛む。


「……あー、まずい。包帯買い忘れてたな。」


「え?」


その時、ふとランディが鞄の中を見て声をあげた。

ちらり、と私とシドを見つめた彼は、にこりといつもの笑みを浮かべて続ける。


「ごめん、ちょっと買いに行ってくる。少しだけ待ってて。」


「えっ?ら、ランディ?」


呼び止める声も受け流し、ひらひらと手を振って歩き出す彼。

突然二人きりになり、何となくそわそわした雰囲気が二人を包んだ。

そっ、と町の方を見るが、ランディはまだ戻ってくる気配がない。


(…い、今しかない…)


「あの、シド…!」


「!」


意を決して声をかけると、彼はふっ、とこちらを見下ろした。

綺麗な碧眼からは、何の感情も読み取れない。


「…き、昨日のことなんだけど…」


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