ヴァンパイア夜曲
ねだるような甘い声。
こんなシドを、私は知らない。
隠しきれない彼の熱が、その口からこぼれて私の心に染み渡る。
ーー“ダメ”
…なんて、誰が言う?
そんな顔されて、断るはずがないじゃない。
ずっと、そうしてほしいと思ってた。
私の全てを貴方のものにしてくれたっていいのに。…欲を言えば、“このままずっと”。
ーーくしゃ。
照れたようにやや乱暴に私の髪を撫でたシドは、ふいっ、と私から顔を背けた。
それ以上何も言わない彼を、もどかしげに睨む。
ーーこの男は、ずっと“こう”だ。何にも執着しないような孤高の人でいて、さらっ、と私の心を盗んでいく。
(…ずるいなあ。…敵うはずがないよ。)
「ーーあー、二人ともおまたせ〜!ごーめん、よく見たら包帯鞄の奥にしまってあった〜!」
街の門からにこやかに歩いてくるランディ。
…本当は、気を使ってくれたのだろうか。
きゅるん、と笑う彼は、シド以上に読めない。
「ーー行くぞ。」
シドが、全てを見透かしたようにランディへ声をかけた。
「はぁい。」と続くランディは、相棒のレイピアを腰に下げる。
目指すは東。
関所を超えた樹海の暗雲は晴れている。
ーーこうして、穏やかな風に背中を押され、私たちは“旅の終着点”へ歩き出したのだった。