ヴァンパイア夜曲
(やられる…っ!)
思わず体が強張り、シドが目を見開いた
その時だった。
目の前に飛び散る血しぶき。
スローモーションに見える残像。
痛みを覚悟していた私だが、倒れたのは私に襲いかかろうとしていたスティグマだった。
はっ!とした瞬間、その背後から現れたのはピアスの青年。
聞き慣れた低く艶のある声が耳に届いた。
「相変わらずスティグマは躾がなっていないな。どうしようもない」
「お兄ちゃん…!?」
予想外の救世主に言葉が出ない私。
彼の背後に続くのは、ノスフェラトゥのヴァンパイア。暗闇に浮かぶ白い軍服が彼の率いる戦闘部隊だと理解するのに数秒かかった。
「ルヴァーノ、お前どうしてここに…!」
「樹海の濃霧が晴れたと遠征先の部下から連絡があったからな。関所に通達して進軍させてもらった」
本当にノスフェラトゥは抜かりない。
統率された部隊には隙がなく、居城周辺の異変をいち早く察知した彼らは即座に装備を整えて攻め込んできたらしい。
「さて。こんなところまでレイシアを連れてきたお前を一度ぶん殴りたいところだが…。今はじゃれ合っている場合ではないな」
無言で視線を交わすシドと兄。
彼らの見つめた先には、一歩も怯む様子のないスティグマが迫る。
ルヴァーノの凛とした幹部の声が樹海に響いた。
「右翼部隊は遠方の敵、後方部隊はシドの援護に入れ!」
目を見開くシド。
ちらりと黒コートの彼を見つめた兄は、低く告げる。
「不本意だが、一時休戦だ。…その弾丸。俺の部下に当てたら噛み殺す」