ヴァンパイア夜曲
行く手を阻もうとするスティグマを、兄の部下たちが次々と蹴散らしていく。
ひらけた道を駆け出すと、後方から合流したランディが目を輝かせて兄に声をかけた。
「ありがとうございます…!まさか、ここで会えるなんて思ってもみませんでした…!」
「あぁ、俺もだ。レイシアとランディくんが健在で安心したよ。…まぁ、厄介なのはこの先だけどね」
兄の言葉に眉を寄せたその時。目の前に大きな壁が現れた。
思わず足を止める五人。
高くそびえ立つレンガ造りの壁は、よじ登ったり破壊して通れるものではないらしい。
「これはローガスの居城を囲む城壁。すなわち、突破すれば大将は目の前ってことだ」
兄の言葉に、ぞくり、と震える。
ついに、ここまで辿り着いた。
相当高ぶっている様子の仲間たちに目をやると、何かに気がついた様子のランディが、そっ、と口を開く。
「城壁の門の前に、誰かいる」
はっ!とした。
確かに、頑丈な門の前には人影が見える。
しかし、恐らくこんな樹海の中にいるのは“ただの人間”ではない。どうやら、ローガス本人でもないらしい。
すると、目を細めた兄が低く呟いた。
「今まで、国から討伐を任命された軍人や腕っ節に自信のある男が何人も出向いたが、皆、あの門の先から消息が途絶えた」
「え…!」
「言っただろう?厄介なのはこの先だって」
未知なる恐怖に思わず足がすくむ。
しかし、怯む様子を見せないシドは力強く足を踏み出した。
「もう、後には引けねえだろ」
もはや、彼を動かすのは国からの任務だけではない。
私やランディ、ローガスに復讐を誓うルヴァーノ。その全ての思いを背負って挑んでいるのだ。