ヴァンパイア夜曲
私は、彼らの会話につい口を挟んだ。
「“お預け”って、どういうこと…?」
シドが、私の血を輸血されたせいでヴァンパイアの体になってしまったことは兄から聞いていた。
しかし、この国にはヴァンパイア用の食べ物や吸血用パックが普及しているはずだ。
すると、通信機越しのランディが、私の予想をはるかに超える一言を放つ。
『実はシド、ルヴァーノさんが手配した血パックに、全部拒絶反応が出てさ。特殊な方法でヴァンパイアになったせいで、レイシアちゃんの血しか飲めなくなっちゃったみたいなんだ』
「ええっ…?!」
ぱっ!と隣を見ると、シドは無言で視線を逸らす。冗談ではないらしい。
…と、通信機の向こうから、低い兄の声が聞こえる。
『…あの男、せっかく吸血させてやった俺の血まで“マズイ”と言いやがった。吐かないからまだ良かったものの、同じ血筋でもレイシアのものじゃないとダメらしい。“お前は一生トマトジュースでも飲んでろ、贅沢者”と伝えてくれ』
「聞こえてんぞ」
『おっと、王子が逃げ出したらしい。…ま、後のことはお兄ちゃんに任せな』
やがて、プツリと途切れた通信。
二人の間に沈黙が流れる。
“私の血しか、飲めない?”
そんなこと、あり得るのだろうか。
ドキドキと高鳴る胸を押さえ、そっ、と再びシドを見つめる。すると、彼はドスの利いた声で低く呟いた。
「…ってことだ。…どうしてくれんの」