ヴァンパイア夜曲
痛みを覚悟して、きゅっ!と目を閉じる。
真っ暗な視界。シドの小さな息遣いが聞こえた。
「…好きなだけ?」
「う、うん!全部はつらいけど…!」
大人しく、じっと待つ私。
狼に自分から喰われる羊。私は今そんな気分だ。抵抗する気はない。これは人命救助なのだから。
近づくシドの気配。
後ろから後頭部を支えるように、私の首元を、彼の大きな手が包む。
ほんのわずかな恐怖心が芽生えた、その瞬間。痛みとは程遠い、柔らかな感触が唇に触れた。
「ん…っ?!」
はむ、とついばまれた唇。
首に噛みつかれるとばかり思っていた私は、思わず目を開ける。
まつ毛を伏せた碧眼と、至近距離で視線が交わった。
「な、な、な、なんっ…でっ!?」
「いいんだろ?好きなだけもらって」
くいっ!と引き寄せられ、再び塞がれた唇。
離そうとしない彼は、小さな吐息をこぼしながら口づけを深めた。
すり…っと首を撫でるシドの指。体に走る甘い痺れ。
トン!とシドの胸を押し返す私に、彼はようやくキスを止めた。
「ち、ちょっと…!いきなり、こんなキス…!」
「感じた?」
「ばか!うるさい!」
すっかりいつもの調子に戻るシド。
頰を真っ赤に染めた私をからかうように、彼はくすくすと笑っている。
「……もう、誰にもやらない」
甘く低い声とともに、ふいに、優しく引き寄せられた。
抱きしめられたと気づいた時には、すでにすっぽりと彼の腕に囚われている。
「俺はもう、お前がいないと…」