ヴァンパイア夜曲

耳元で聞こえた声は、少し震えていた。

こわばった体が徐々に緩んだ。

すっと離れるシド。

真正面に見えた彼の瞳は、初めて見たときと同じ、綺麗な碧い光を宿していた。


「責任とれ。ずっと、俺の隣にいろ」


俺様な命令口調。

素直じゃない言葉は、照れ隠しだと知っている。


ずっと、忘れようとした。

ただの旅仲間の関係で、私たちを繋ぐものは血しかなくて。

想いを消そうと、他の人のものになろうとした。


だけどもう、この人から離れることなんて選び取れない。


“…この世に神なんていねえよ。…周りの奴を救えるのも、自分自身を救えるのも、生きてる奴の出来ることだ。”


私が前に進めたのは、シドのおかげなんだ。


「覚えてるよ、ちゃんと」


「…ん?」


「キスマークが消えるまでは、私はシドのものなんでしょう?」


目を見開く彼を引き寄せた私。

何度も血をもらった首筋に、ちゅっ、と口づけを落とす。彼の肌に刻まれる跡。


「消えたら、何度でもつけて。…ずっと、シドの側にいたい」


『…せめてこの“跡”が消えるまでは…“俺のもの”だって思わせてくれてもいいだろ…?』


かつてのシドの口説き文句。

私の言葉の意味を理解した彼は、不意打ちを食らったように、わずかに頰を染めた。


「…煽るな、バカ…」

< 254 / 257 >

この作品をシェア

pagetop