ヴァンパイア夜曲
耳元で聞こえた声は、少し震えていた。
こわばった体が徐々に緩んだ。
すっと離れるシド。
真正面に見えた彼の瞳は、初めて見たときと同じ、綺麗な碧い光を宿していた。
「責任とれ。ずっと、俺の隣にいろ」
俺様な命令口調。
素直じゃない言葉は、照れ隠しだと知っている。
ずっと、忘れようとした。
ただの旅仲間の関係で、私たちを繋ぐものは血しかなくて。
想いを消そうと、他の人のものになろうとした。
だけどもう、この人から離れることなんて選び取れない。
“…この世に神なんていねえよ。…周りの奴を救えるのも、自分自身を救えるのも、生きてる奴の出来ることだ。”
私が前に進めたのは、シドのおかげなんだ。
「覚えてるよ、ちゃんと」
「…ん?」
「キスマークが消えるまでは、私はシドのものなんでしょう?」
目を見開く彼を引き寄せた私。
何度も血をもらった首筋に、ちゅっ、と口づけを落とす。彼の肌に刻まれる跡。
「消えたら、何度でもつけて。…ずっと、シドの側にいたい」
『…せめてこの“跡”が消えるまでは…“俺のもの”だって思わせてくれてもいいだろ…?』
かつてのシドの口説き文句。
私の言葉の意味を理解した彼は、不意打ちを食らったように、わずかに頰を染めた。
「…煽るな、バカ…」