ヴァンパイア夜曲
シドが、私の首元に顔をうずめた。さらり、と漆黒の柔らかな髪が肌を撫で、ちゅ…、と唇が触れた所に彼の熱い吐息がかかる。
「…噛んでもいいか?」
ぎこちなく、こくり、と頷く。
拒む理由なんてない。
少し躊躇するように動きを止めた彼。
しかし、やがて、そっと牙を突き立てると、本能のままに噛み付いた。
痛みとともに、ふわりと香る血の匂い。
耳元で鳴る喉の音。傷から流れる血を舐める舌の感触。
思わず震えたその時、シドの腕が、ぐいっ!と私を抱き込んだ。
「…っん…、はぁ…っ…」
シドが、吸血の合間に切ない吐息をこぼす。遠慮がちに甘噛みしていた彼も、やがて余裕がなくなったように、純血に貪りついた。
初めての感覚に、体の力が抜ける。
血が抜けていっているからか、それとも、緊張でこわばっているせいなのか分からない。
だが、痛みよりも私の心を支配していたのは、“シドに求められている”という甘い優越感だった。
くらりと思考が鈍る。
思わず彼に体を預けると、はっ!としたシドが動きを止めた。
「…悪ぃ…、夢中になってた…。大丈夫か…?」
「うん…」
「…その、加減ってのが、分かんねえんだ…」