ヴァンパイア夜曲
初めての吸血に、ひどく心を奪われたらしい。血パックとは違う、嗜好品のような甘い味にすっかり落ちてしまったようだ。
ちゅ…、と噛み跡に小さくキスをしたシドは、私から離れて困ったように髪をかきあげる。
「まさか、お前と俺の立場が逆転する日が来るなんてな」
「…確かにそうね」
ふっと笑った彼は、過去を振り返るように目を細めた。
私は今まで、シドの血だけを飲んできた。
そしてシドは、私の血しか飲めない。
お互い、どちらかがいなくなれば生きていけない。もう、離れることなんて出来ないのだ。
私たちはもう、囚われている。
草原に仰向けになるシド。
全てを悟ったように目を閉じた彼は、うわ言のようにぽつりと呟く。
「お前が言ってた“神のお導き”っての。…信じてみるのも悪くねえみたいだな」
冒涜発言を繰り返してきたシドらしからぬ言葉。つい口元が緩む。
彼の言う通り、二人の出会いは神の仕組んだ悪戯だ。
春の風が頰を撫で
二人を祝福するような花吹雪が空へ舞い上がったのだった。