ヴァンパイア夜曲
第1章*シスターと死神
翌日。
私は、替えの包帯を持って修道院の廊下を歩いていた。
しんしんと降り続いていた雪も止み、窓から見える庭は穏やかな朝の光に包まれている。
(あの人、まだ寝ているかしら)
雪の中に倒れていた青年を半ば引きづるようにして連れ帰ると、修道院のシスター達が血相を変えて私たちを出迎え、応急処置の準備を始めた。
命の危険はなくなったものの、処置を終えてもなお彼は意識を失ったままであり、目覚める気配はないようだ。
(それにしても。あの人、この辺に住む人じゃないわ)
少し癖のある漆黒の髪に、綺麗な寝顔。何度記憶を探っても、見惚れるほど整った彼の顔に見覚えはない。
服は髪と同じくらい黒い色のコートで、中に着ていた血まみれのシャツも黒だった。それはまるで、喪服だと言わんばかりである。
また、人気(ひとけ)のない森の中に血だらけで倒れていたことも謎であったが、彼はそれ以上に不思議な青年であった。
彼の持っていたやたら中身の少ない鞄には、使い方の全く分からない通信機と数枚の銀貨が入っており、さらに、走り書きで色んな国の言葉が書かれたノートがあった。