ヴァンパイア夜曲
さらに、救護の名目で服を脱がせると、明らかに農村の人ではない鍛えられた筋肉質の体に、鋭いもので傷つけられたような痕が見えた。
意識を失うほどの出血は、この傷によるものらしい。
そもそも、こんなにも引き締まった鋼の肉体は、並大抵の筋トレで手に入るものではないだろう。
(彼が起きたら聞いてみよう。一体、何があったのか…)
コンコン。
一応、ノックをして彼の寝ている部屋の扉に手をかける。
そして、一歩中へと足を踏み入れようとした、その時だった。
部屋の中から吹き込んだ、冷たい風が頬を撫でた。
そして視界に飛び込んできたのは、暖炉の前で乾かしてあった黒いコートを羽織り、窓枠に足をかける青年の姿である。
「何をやってるんですか!」
ばちりと目があった青年は、“くそ、見つかったか”と言わんばかりに顔をしかめる。
修道院から人知れず逃げ出そうとしていた彼へ一目散に駆け寄りその腰へ抱きつくが、体幹がある彼はビクともしない。
「大人しく寝ていてください!まだ歩ける状態じゃないでしょう!?」
「もう治った」
「は、はい?バカですか貴方は…っ!」