ヴァンパイア夜曲
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「食料よし、着替えよし。忘れ物はないわね」
翌日。
穏やかな朝の光とともに私は修道院の前にいた。シドを見送った朝と同じ場所。しかし、今度は旅立つ番だ。
シドは私の隣に立ち、コートをばさりと羽織っている。
修道院の皆にはヴァンパイアになったことを隠して、一身上の都合でここを出ると伝えた。
十年間共に暮らしてきた仲間は家族の旅立ちに涙ぐむ者もいたが、大勢のシスターが私の出発を快く見送ってくれたのだ。
外まで見送りに来たのはマーゴットである。
「レイシアねえさま…!!」
修道院の中からパタパタと駆けてくる少年が見えた。ミックは散々泣きはらしたようで目元が赤い。
ぎゅっと心が締め付けられた。
ずっと弟のように接してきて、また、彼も私を慕ってくれた。まるで本当の姉弟のように。
すると、私の前までやってきた彼は、ばっと私に抱きつき、そして泣くのをこらえた笑みで私を見上げた。
「“またね”、レイシアねえさま…!」
思わず強く抱きしめて頰に軽くキスをすると、ミックは堪え切れなかったようにぽろぽろ涙をこぼす。
そんなミックを抱き寄せたマーゴットは、私に小さく合図を出した。
別れの時だ。
「向かうは東じゃ!達者でな、レイシア」