ヴァンパイア夜曲
もう振り返ることはない。
私は一つの鞄を肩にかけ、外套を羽織って歩き出した。その道は今まで通ったことのない未知なる土地へ続く道。
「シド。昨夜の約束、忘れてはないじゃろうな」
「あぁ。何があっても守ってやるさ」
マーゴットの囁きに青年が低く返事をした声は、私の耳には届かなかったのです。
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「…この道で合ってるのかしら…」
初めての地図。
くるくると回しながら現在地を探る。
どこかで、こうやって地図を回す奴は大体方向音痴だと聞いたことがあるが、そうでもしないと進んでいる道が分からないのだから仕方ない。
一方黒コートの彼といえば、相変わらず身軽な装いで、知っている道と言わんばかりに私の後方をすたすた歩いていた。
やがて立ち止まって地図とにらめっこしてみるがどうも分からない。
(なんでこんなに木が多いのかしら。そもそも、この地図っていつのもの?道が変わっているような…)