ヴァンパイア夜曲
『倒れた貴方を私が見つけたのも、きっと神のお導きです!』
修道院から逃げ出そうとしていた彼を引き止めた時の記憶が蘇った。
確かに私はそう言ったが…。
シドは、感情を悟らせないクールな顔で、ぽつりと呟く。
「仕方ねえから旅に付き合ってやるって言ってんだ。ついでに俺の血もやるよ。吸血の一回二回どうってことねえし。スティグマになられてもうぜえからな」
「そういう言い方しか出来ないの?貴方は」
神なんてくだらないって言っていたくせに。
今も運命なんて信じていないんでしょう?
(でも)
実は、私は知っている。
昨日の夜、私が部屋を出た後、残った二人がこっそり話していたことを。
『シド。お前の旅にレイシアを連れて行ってはくれないか』
『あいつを…?』
『薔薇の廃城の真実を求めているなら、おのずと復讐を誓って犯人を追っているレイシアの兄に辿り着くだろう。…外の世界に娘をやるには、護衛をつけないと不安でな』
『俺にお守りをしろってか?』
彼は本当に素直じゃない。
マーゴットの提案をのむとは思わなかったが、どうやら彼の根本はお人好しのようだ。
「…ありがとう、シド」
「別にただの気まぐれだ。ペットでも飼ったと思えばな」
「……ほんと、ひねくれてるのね……」
こうして、私とシドの二人旅が始まったのだ。