ヴァンパイア夜曲
「また行き止まりか。くそ。宿屋の方角は分かるのに、道が迷路になってるせいで辿り着けねえ…!」
シドがくしゃりと前髪をかき分けて顔をしかめた。
街に着いてから三十分は歩き続けているが、一向に宿屋が見える気配がない。街の案内板で立ち止まり、地図を覚えて歩いても気づけば元来た道に戻ってきてしまうのだ。
「…はぁ。もう、この街の奴に聞いた方が早え」
旅の疲れも相まって殺し屋オーラが数倍濃いシドは、そう呟いて痺れを切らしたように近くを歩いていた男性へと歩み寄る。
慣れない野宿続きで身体がバキバキになった私も、男性が親切に宿屋の場所を教えてくれることに一縷の望みをかけた
その時だった。
「おい、ちょっといいか」
「ぎゃぁぁっ!」
シドが声をかけた途端、ひどく驚いて飛びのく男性。
シドが強面のせいかと思ったが、そうではないらしい。
「な、なんだ、人間じゃないか…!ビックリした…」
相変わらず無愛想なシドの隣で意味深なセリフに首を傾げると、私を見た彼は緊張を解いたように苦笑しながら言葉を続けた。
「いやぁ、悪かった。最近ここらでスティグマがよく出るから、襲われたのかと思ったんだ」