ヴァンパイア夜曲
あんな大きなお屋敷、維持費もバカにならないはずだ。どれほどの財産を持っていればそんな暮らしが出来るのだろう。
にわかに信じがたいほどの大金持ちエピソードがとどまることを知らない。しかし次々と語られる話は紛れもなく真実であるようだ。
シドは小さく息を吐いて男性に尋ねる。
「じゃあ、あのデカい屋敷を目指して歩けば宿屋に辿り着けるんだな?」
「あぁ。あれくらいの目印なら、この街でも迷わないだろうね」
よし。
これで、街の路地で寝るという選択肢はなくなった。
にこやかに私たちへ手を振って去っていく親切な彼にぺこりとお辞儀をしながら、シドは背伸びをして歩き出す。
「さっさと宿を見つけて部屋取るぞ。今日こそ、何が何でもベッドで寝てやる」
ショートスリーパーの彼も、私より野宿に慣れているとはいえ疲れが溜まっているようだ。
私も早くお風呂に入ってゆっくりしたい。
するとその時。宿屋まで飛んでいきたい、なんて願う私の視界にあるものが映った。
「見て、シド。あそこにも道があるみたい。あの方角なら、まっすぐ進めば普通に歩くよりも早く辿り着けるかもしれないわ」
私が指差したのは、地下水路へと続くトンネルだった。薄暗いトンネルは地上の街とは違う雰囲気を醸し出しているが、道としては使えるらしい。
シドは一瞬渋るように目を細めたが、やがて地下水路が一番の近道であることを納得したように歩き出したのだった。