ヴァンパイア夜曲
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ーーピチチチ。
遠くから、穏やかな小鳥のさえずりが聞こえる。
肌を撫でたのは柔らかいシーツの感触だ。
(…あれ?私、ベッドで寝ちゃったんだっけ…?)
外はもう朝のようだ。ほのかに漂ってくるいい匂いからして、そろそろ朝食の時間らしい。
しかし、昨日は眠りについたのも遅い。チェックアウトの時間までベッドで寝ていたいというのが本音だった。
朝食を用意してくれた宿屋の主人に、ごめんなさい、と心の中で謝りながら、私は枕を探し求める。
そして、肌に触れていた布に抱きついた
その時だった。
(ん?“あたたかい”…?)
枕にしては固い感触。しかも、それは生きているように温かく、石けんのようないい匂いがする。
違和感を感じて目を開けると、私の視界に映ったのは、はだけた胸元から見える筋肉質な体と、見惚れるほど綺麗な寝顔だった。
「きゃぁぁぁっ!」
私の叫び声に、ぱち!とものすごい勢いで目を見開くシド。まるで敵襲か?!と言わんばかりだ。
ーードカッ!!!
思わず突き飛ばすと、彼は低いうめき声をあげながらベッドから転げ落ちてゆく。
床に体が打ち付けられたそれは、宿屋の屋根にとまっていた小鳥が全て飛び立つほどの衝撃だった。