ヴァンパイア夜曲
「ど、ど、どうしてシドが私の隣で寝てるのよ…っ!」
気が動転した私が頭を抱えてそう叫ぶと、ゆらり、とこちらを睨んだ彼は低く唸る。
「……お前が吸血したまま寝落ちして、抱きついて離れねえからだろーが……!」
もともとシドは低血圧で寝起きが悪い。
それに加え、今朝は私のせいで、ただでさえ狭いシングルベッドで寝心地の悪い一夜を過ごした挙句、無抵抗の状態でベッドから蹴り落とされた。
…つまり、不機嫌マックスだ。
ーーコンコン!
その時、廊下の方から扉を叩く音がした。
まさか、今の音を聞いて主人がクレームを言いに来たのだろうか。呑気に朝食をすっぽかそうと言っている場合ではない。
私は、未だ夢と現実の間を彷徨っている様子のシドをよそに、髪の毛と服を整え、急いで扉へと駆け寄った。
勢いよく開けたその時。
扉の向こうにいたのは、私が想像していた宿屋の主人ではない。
サラサラの銀髪に、翠の瞳。彼の目が合った瞬間、お互い目を見開いて数秒固まった。
「えっと…、一応気を使ってシドの借りている部屋に来たつもりだったんだけど……。逆にお邪魔だったかな?」
「ら、ランディ…!」
彼は気まずそうに言葉を濁す。それもそうだ。シドが泊まっていると思っていた部屋の扉から、明らかに寝起きの私が飛び出して来たのだから。
明らかに誤解されている。