ヴァンパイア夜曲
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「くそ……、“お守り対象”が増殖するなんて…」
朝ごはんを済ませた午前10時。
シドがドス黒いオーラを撒き散らしながらぼそりと呟く。
宿屋を出た私たちは、突然“仲間にしてくれ”と押しかけて来たランディとともに市街を歩いていた。
「あはは!僕のことは別に守らなくたっていいよ。そんな不機嫌な顔しないで。レイシアちゃんとの二人旅が良かったのは分かるけどさ」
「……それは一言も言ってねえだろ……!」
ふたりは相変わらずだ。
ランディは、小さく息を吐いてまつ毛を伏せた。
「昨日、一晩考えて思ったんだ。旦那様を救えなかった分、彼をスティグマに変えたローガスを討つことが僕の使命なんじゃないかって」
昨夜の惨劇を思い出し、ランディの言葉に異を唱える者はいなかった。彼は、簡単な気持ちで私たちについていきたいと言ったわけではないらしい。
目指す場所が同じなら、彼の“お願い”を無下に断る理由もないだろう。
私は、ニコリと笑ってランディを迎え入れた。
「ランディが一緒に来てくれればシドの負担が減るから嬉しいわ。私も甘えてばかりじゃいられないけど、スティグマと戦う時になったら、仲間が多い方が安心だもの」
「あはは!ありがとう。僕も大切なお姫様を守る騎士として君の側にいさせてもらうよ」
「……変な真似をしたら容赦なく俺が撃ち抜くからな」
少々不機嫌なシドも、なんだかんだ言いながらランディを受け入れているようだ。
再び言い合いが始まった彼らを、私は苦笑して見つめる。