ヴァンパイア夜曲
「ランディ!」
と、街の門を出ようとした時、一人の青年が駆けてきた。
アルジーンである。
はっ、としたランディが思わず足を止めると、怒ったような表情のアルジーンが、ツカツカとこちらへ歩み寄った。
「お前、俺に黙って出て行こうとするなんてどういうことだ!」
怒りがおさまらないらしいアルジーン。摑みかかる勢いの彼に、ランディはさらり、と答える。
「あぁ、置き手紙は残しただろう?…僕を拾った旦那様が亡くなった今、僕はあの屋敷にいる権利がなくなったからね」
「な、何を言っているんだ!俺は出て行けなんて言っていないだろう!」
「今さら、引き止めに来たのかい?僕と一緒にご飯を食べたことすらなかったじゃないか」
「うるさい!」
一喝したアルジーンは、キッ!とランディを見上げた。
「俺は、お前に言いたいことがあってきたんだ…!」
(言いたいこと?)
ひどく困惑したような青年は、どこか悲しげな瞳で言葉を続ける。
「ランディ。お前、自分はダンピールだと公言したそうだな。どうして使用人達に“旦那様は僕が血を奪ったせいで死んだ”なんて嘘をついた?」
アルジーンが語った内容は、昨夜の事件を目の当たりにした私とシドからすれば信じられない内容だった。
スティグマになったのはゴードルフだ。その上、ランディは抵抗もせず彼に血を渡そうとした。ランディが使用人達に話したことと立場がまるで逆だ。
アルジーンもランディの首に残された噛み跡から嘘を見抜き、真実を察しているらしい。
すると、ランディは静かに笑って呟く。
「…アルジーンが守ってきた“父上の威厳”とやらを立ててやろうとしただけさ。人望が厚く、権威のある旦那様がスティグマになって撃ち殺されたなんて、彼を慕っていた使用人達は聞きたくないだろう」
「それは、そうだろうけど」
「その点、僕は元々嫌われ者だし。屋敷を出る理由ができてちょうど良かったからさ」
「ふざけるな…!!」