ヴァンパイア夜曲
アルジーンは、複雑そうな表情でランディを見上げる。
ランディがべイリーン家を守ろうと嘘をついたことを知り、振り上げた拳をどこに下ろせばいいか分からなくなった、といった感じだ。
その時、アルジーンが覚悟を決めたように口を開く。
「昨日の夜、屋敷で見たお前の瞳は深紅に染まっていた。そもそも、よく考えればおかしかったんだ。いくら慈悲深い父上といえど、使用人の子どもをわざわざ屋敷に招き入れて育てるなんて」
“ーー“親父”は、僕が救う”
アルジーンの言葉に私の脳裏をよぎったのは、昨夜のランディの言葉。無意識に出たようなあのセリフが、全ての真実だったのだ。
アルジーンは、確信を得たようにはっきりと言葉を放つ。
「ランディ…、お前は、俺の……!」
その時。
ランディは静かにアルジーンの頭に手を乗せた。
頭一つ分低い青年の髪を、あやすように撫でる。
「何を勘違いしたか知らないけど、僕は母親がヴァンパイアなんだ。きっと、君の考えていることはハズレだよ」
「何を今さら…!しらばっくれるな!」
「今さらは、こっちのセリフさ。出来のいいアルジーンと不良まがいの問題児である僕が兄弟な訳ないじゃないか。…もし、僕が本当に君の兄なら、大事な弟を一人残して旅に出て行ったりしないだろう?」
その光景に重なったのは、かつて私を置いて修道院を出た兄の姿だ。
私の髪を撫でた兄は、さよならの一言もなく姿を消した。