付き合ってないんだよ…ね?環くん。【短】
「僕はただ……」
どう話を切り出せばいいのだろう?
「あん?」と片眉を上げる環くんを前に言い淀んでいると。
「無理です!」
渡り廊下の方からそんな声が聞こえてきて、僕と環くんは声のした方へと同時に顔を向けた。
見ると、田中さんが何やら男子生徒に絡まれているところだった。
ん?
しかも、あれは確か、僕らの学年でもチャラ男と名高い内田くんでは……。
「いいじゃん!今日だけだからさ!俺、いい店知ってるんだって」
「一日でも、一時間でも、一分でも、あなたに割いてる時間なんてありません!」
「えー。酷くね?これでも俺、結構好きだって言ってくれる子多いのよ?」
「知りませんよ!私が好きだって思うのは、この世でただ一人!!環くんだけですっ!!」
キッと睨みつけ、ハッキリそう言ってのける田中さん。
……カッコイイな。
上級生相手にあんなに堂々と。
あんなふうに想ってもらえる環くんが、正直ちょっと羨ましいくらいだ。
だけど、相手が悪かった。
田中さんが断固拒否の姿勢を崩さないにも関わらず、内田くんも諦める様子がない。
しまいには、田中さんの手首を掴んで、どこかに連れて行こうとしているじゃないか。