真宮ゆずはあなどれない。
「つまりさ、この問題はこっちの方程式を使って解かないと……ちょっと真宮? 聞いてる?」
「えっ」
「えっじゃないよ。ちゃんと見て、聞いて、覚えて」
あたしは今、なぜか柾樹の家で、なぜか数学を教わっている。
一緒に帰ってきたはいいものの『うち寄ってく?』という爆弾発言ののち、なんの脈絡もなく今に至るわけだけれども、いや……これはいったいなんなんだろう。
数学の方程式とかさっぱりだけど、今日の柾樹の方がさっぱりだ。
「むしろ柾樹が熱あるんじゃない!?」
「は? なに言ってんの、熱なんかないし」
そ、そうですか、いつにも増してキレのある返答をどうも。
思えば柾樹がこんなに喋っているところを見るのは、はじめてかもしれない。
同じクラスになってからすぐ、数学の問題が分からなかったあたしを遠回しにフォローしてくれたことなんてきっと本人は覚えていないだろうけれど……。