真宮ゆずはあなどれない。
「今日も彼女の相手大変だなー、彼氏さんよ」
――と、そんなセリフを投げかけてきたのは僕たちの様子を二つ隣の席から見ていたクラスメイトの田辺だ。
からかわれているのはわかっているし、今さら否定するのも面倒な僕は、あたかも聞こえていないフリを貫き通す。
まぁ僕なんて、
ちょっと宿題を見せたり買い出しに行かされたりするだけで、別に金をたかられたりだとか閉じ込められたりするわけじゃない。
だから別に僕だってイジメられているとは思っていないのだけれど、真宮の『彼氏じゃん』攻撃にはだいぶ参っていると言っていい。
冗談なら冗談とわかりやすいようにすればいいのに、
それどころか真宮は、放課後いつも決まって僕と一緒に帰ろうとするし、休みの日にも関わらずわざわざ連絡してきたりする。
前にも急に呼び出されて慌てて行ってみれば、ただ買い物したかっただけ(荷物持ち要員)ということもあった。
そういう出来事だけ見ていれば、たしかにカレカノっぽいと言えなくもない。
まぁ……そんな事実はカケラほどもないし、僕は真宮の彼氏ではないのだけれど。
「ありがとー、柾樹。あ、今日も一緒に帰ろう!」
「はぁ……」
でも困ったことに、
この裏のなさそうな無邪気な笑顔を向けられると……僕はどうしてか断れなくなってしまうのだ。