放課後の準備室、先生と。




シングルベッドは結論から言えば距離が近すぎた。呼吸も、体温も、何もかもがわかってしまう。

「嫌なら、僕はちゃんと向こうで寝るよ」

先生は何度もそう言ってくれるけれど、私はそのたびにそっと先生の服を掴む。

「いかないで」なんて言えないし、言いたくない。

はっきり言うなら、私は、先生への気持ちを心の中でうまく処理できていない。だって前は、先生のことを例えどんなに好きになっても、こんな互いを滅ぼすような行為、絶対にしないと思っていた。

先生、と呼ぶのも、苦じゃなかったのに。

「先生、は……余裕ですか?」

「まさか。そう見えるなら、余裕に見えるように精一杯頑張ってるだけだよ」

先生がぎゅっと私を抱き寄せたことで、結果的に私は先生の胸に顔を埋める。

「あ……」

先生の心臓は、私と同じくらい速かった。

「わかる? 僕だって、好きな人の前で必死なんだよ」

それを知って、急に安心した。私だけじゃないのだ。

いつもこの時間、私はもう寝ている。だから眠いはずなのに、先生に抱きしめられていると、睡魔なんて消え去ってしまう。

会話に困って、私はずっと先生に聞くべきで、でも聞きたくなかったことを口にした。

「先生は……この関係に、未来があると思いますか?」

先生から、返事はない。寝てしまったのかと思って、確認しようと顔を上げると視線が宙で絡まった。

「レイは、どう思うの?」

「私、は……」

「僕は、何があってもレイのそばにいるよ」

私の頭を撫でながら続ける。

「多分この先、君以上に好きな人なんて出来ない。自分でも呆れるくらい、レイのことだけなんだよ僕は」

……先生のことは好きだ。どうしようもないくらいに。でも、未来まではまだ想像できない。

これが一時の恋情なのか、違うのか、それすらもまだわからない。もし先生がいなくなっても、私はまだ、先生のことを好きでいられるのだろうか。忘れてしまわずにいれるのだろうか。

「先生」

いつも通りの、優しい笑み。先生はどこまでも先生だ。

「……おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

そっと頭を撫でてくれる先生は、やっぱり好きだ。

目を閉じる。ふと浮かんだのは、数年前のこと。

『……またね、レイちゃん』

その後ろ姿を思い出せるのに、なぜだろう、貴方の顔だけが浮かばない。

お兄さん__あの人は今、何をしているのだろう。




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