龍喜庵へようこそ
まずは今開ける予定ではなかった、家に帰って飲もうと思った、とっておきの赤ワインを開けようとする。
温度管理がちょっとアレだが、この値段ならまあ、今開けても楽しめるだろう。
だが、信長は即座に、
「いらぬ」
「え?」
「チンダ酒なら、飲んだことがある」ポルトガルの赤、つまりティントから来たといわれているその名前は、つまりは赤ワインのことを指していた。
「・・・・・・」
「わざわざここに来て、昔やったことをやろうとは思わぬ」
さすがは信長だ。だが、榊もまた思ったままを言う。
「この時代のものは、技術の発達もありますし、また違った意味で美味しいと思いますが」
「では、いただこう」
ぎろり。ちょっと、戦国武将の風格が出る。余計なものを飲ませたらただではおかん、という目である。だがそれに気付いたのか、信長は笑った。
意外と部下には寛容な、気配りの人だったことは知っている。榊は不思議と引き込まれた。
「フランスのチンダ酒・・・いや、ワインです。宣教師達が来た国の、ほぼとなりにある国です」フランスについて説明したら言葉が足りないだろう。美食の国。芸術と文化を大事にする国である。
ブルゴーニュのピノノワールを一口のみ、信長は感嘆した。
「うまい。みごとだ」信長は口にした。「飲み物が偉大であることを予は悟った。また、飲んだ自分までも、偉大な気持ちにさせてくれる。後味も長いし、真摯な気持ちになるし、また陶酔もする。酒に酔って、また別の意味でも酔える酒よ」
すごいな、こんなカンタンに言葉に出来るとは。サッと出るのが素晴らしい。
「心から感動した。本当に見事だ。これを創った作り手、そしてそなたに感謝をしたい」
榊は悟った。
本物だ。
この男は、本物の信長だ。
鎧を着ていなくとも。刀を差していなくても。間違いなく、天下を取る男だ。
「お時間を頂ければ、他のワインもあります」近くにワインショップがある。もう少し上等なものも出せるだろう。この男にならどんなに金が掛かってもいいという気になるのは不思議である。
信長は首を横に振る。そうか、さっき言ったな。
ギラリ。ちょっと恐い目になる。
「そなたはこの時代になって、まだ、異国のものを予に薦めようとするのか」
――はっ。
「この国のものを楽しみたい。いま創る予定だったものを創ってくれ。わしは、そなたを見に来たのだ」
榊は笑顔を作った。
「わかりました」
材料を多めに買ってきて良かった。
榊は、材料を出した。
榊のグラスが減ってきたので、ワインの瓶に手を出す。
「構わん。手酌で飲む」
「恐れ入ります」この風格。
「余り気を遣わんでよいぞ」
遣いますよ、そのオーラは。
餃子の皮、挽肉、キャベツ、調味料その他を出す。
聞かれる前に、言う。
「豚の肉を細かくしたものと、キャベツという野菜です」
「説明はよい。どうせ全部聞いてもわからぬわ」
「では料理の説明だけを。材料を皮に込めて、油で焼きます。火が出ますので、後ほどはご注意下さい」
「おぬしが食べる予定だった、その通りに創ってくれ」
・・・手間をどうかけるか考えていたのがバレたか。さすがだ。
包丁を取り出す。刃物だが、特に警戒はされない。
だかだかだかだかっ、とキャベツを千切りにする。
ここでキャベツに塩をすると時間が掛かる。水が出るのを待って切る時間が勿体ない。
挽肉にキャベツを混ぜたら、もう、胡椒、醤油のみで味付ける。
餡の出来上がりだ。
これを皮に包んでいく。水を付けて皮をつなげたらもう餃子だ。
フライパンに油を引く。餃子で塗るようにして広める。
火を付ける。信長の目が見開かれたが、それ以上は何も言わない。
少しずつ、裏を見ながら、焼いていく。
途中で、水を入れて蒸し焼きにする。
このとき、塩を入れる。ここで塩味を付ければ問題ないからだ。
餃子の水分がなくなったら出来上がりだ。2回焼く。
冷蔵庫から、もずく酢を出す。
グラスにレモンサワーを注ぎ、供する。
食事の時間だ。
「泡・・・!」その様子がなんとも可愛らしく、榊は笑いそうになる。
「少し酸味が御座います」
乾杯などはしない。その習慣はないからな。榊は少し寂しくなった。よく考えたら信長は客だから、まあ乾杯はしなくてもいいだろうと思ったのだが、
「乾杯しないのか?」
これにはしびれた。
そうか、宣教師がいたから、乾杯の習慣はあったのか。
榊は日本人で恐らく初めて信長と乾杯をした。
「酸い! だがうまい」
信長はレモンサワーを味わった。それから、もずく酢を食べて、「うまい」
それだけ言った。
「酸い物に、酸いものとは、よくも考えたものよ」
この人さすがだな。料理と飲み物の相性をすぐに見抜いたよ。
しばらく信長は、もずく酢を楽しんだ。箸の使い方がエレガントだ。
そして。
冷蔵庫からソレを出すとき、榊は身が震えた。
「ビールと言います」
信長にビールを勧めてしまった。
日本中の接待係がうらやましがるだろう。
だーっ、と、泡が出るように注いで、それが落ち着いたときに、また注ぐ。日本中で、誰もが知る美味しい注ぎ方である。
「一気に飲み干されることをお勧めします。苦みが美味しいのです」
「飲んで見せてくれるか」
榊は失礼します、と言い、飲み干した。自分で買ったビールなのに、何故か申し訳ない気がした。
ぷはーっ、うめえ、とは出来ずに、まじめくさって、「それではどうぞ」と言うのはなんか不思議な気がする。
信長は、おそるおそる、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
くわっ、と目が見開かれる。
「日々の疲れを癒す力があるな。下々の者から、華やかな場まで、全てに使えるだろう」
榊は餃子を取り出して、醤油と辣油、酢で作ったタレを渡した。
「先に召し上がって宜しいですか」信長は頷く。
榊は、タレに餃子を付けて食べた。
知らなければ、少なめに付けてしまうかも知れないからだ。榊はわざと多めに付けた。信長は確か濃いめの味付けが好きなはず。酢と辣油のみ、の組み合わせもあるが、さっきのレモンサワーにもずく酢で、酸味はある意味取っている。
信長は目を見開いて、榊をにらみつけるように見た。
ひっ、と思わず、あたまを下げようと思ったが、さすがに占い師としての経験でそれをこらえて笑顔を作る。
「見事だ」
「これは、私が、最初から食べようと思っていたものです」
そうして、500円の赤ワインを出す。
グラスを変えて、注ぐ。
「どうぞ。ビールではなく、赤ワインでどうぞ」
醤油の色と、赤ワインの色は近い。
信長はタレに餃子を付けて、赤ワインを飲んだ。
「西洋と東洋の、見事な和合よ」
ニヤリ、と笑った。
「しばらく味わっていて構わないのか」
「もちろんです」
「そなたも一緒に食べよう」ドラマで見る信長とはまるで違う、人なつっこい笑顔で信長は言った。
「おかわりをくれ」
信長はそれから、何も言わずに、榊を見る。
まだあるのか? と聞いている様子である。
榊はカマンベールチーズを出して、すすめた。
口にして、そのまま、赤ワインで合わせる。
「西洋の味噌のようなものか」
しきりにうまい、と言う。
しばらく、何も言わずに何か考え込んでいるようだった。
「この組み合わせは、そなたが考えたのか?」
「はい」
「日本人はこのようなものを毎日食べているのか」
「この組み合わせは誰でも真似出来ます。ですが、もずく酢、餃子、チーズの流れになると、恐らく皆無かと思います。もずく酢の後には刺身や焼き魚、餃子の後には明の国、今は別の名前ですが、麺を食べたり、焼いたご飯を食べたりしますし、チーズの前には西洋の食事を取ります」
「まったく違和感はなかった」即座に信長は、「気に入ったぞ。そなたの名前を聞こう」
ナントカの守とか、ないんだけどな。苗字と名前だけだ。「サカキング」とか呼ばれていたあだ名はやめよう。
「榊龍一と申します」
「龍一。茶はあるのか」
ズキーン。
あ、あの信長に!
お茶の話を振られた!
なっなんと!
無理してでも茶道具とか持ってくれば良かったかな。いや、この人の前では、日常手に入る道具ではちょっと満足してもらえないだろう。最低でも一点ものを揃えねば。
榊は、チョコレートを出して、コーヒーを薦める。
もう、言葉もなにもいらない。
しばらく、会話のない時間が続いた。
ふたりは、ただ、何も言わずに、静かにコーヒーを啜った。
席を立ち、信長は、「大義であった」
「ありがとうございます」
「再来週も、材料は多めに買っておいた方が良いぞ」
なんか、色々聞きたい気がする。
この人なら、歴史の闇に埋もれた真実とか、いまなら話してくれるんだろうか。
でも。
野暮だよな。
だから榊は、黙って頭を下げた。
なぜか、こんな言葉が口をついて出る。「・・・友人は龍と呼びます」
「ここを、龍喜庵と名付けよ・・・よいな龍」
榊は感動した。これ以上の名付け親がいるだろうか。
「お願いがあるんですけど」
「後に残るものは残ぬぞ」
はじめてからりと、榊は笑った。
「デアルカ、って言ってみてくれませんか」
二人は大笑いした。
「デアルカ。これでよいか」
「ありがとうございます」
「デアルカ」
信長が去った後。
榊は思いつきり洗い物をした。
ソファーで寝てしまえば、起きたときに、ひょっとしたら、1つだけの皿を見たくないから。
今洗ってしまおう。2つの皿と、たくさんのグラス。
全てを洗って、ソファーで時間まで休む。
まどろみの中、榊はふとこんな事を考えた。
次は、誰が来るんだろう。
つづく
温度管理がちょっとアレだが、この値段ならまあ、今開けても楽しめるだろう。
だが、信長は即座に、
「いらぬ」
「え?」
「チンダ酒なら、飲んだことがある」ポルトガルの赤、つまりティントから来たといわれているその名前は、つまりは赤ワインのことを指していた。
「・・・・・・」
「わざわざここに来て、昔やったことをやろうとは思わぬ」
さすがは信長だ。だが、榊もまた思ったままを言う。
「この時代のものは、技術の発達もありますし、また違った意味で美味しいと思いますが」
「では、いただこう」
ぎろり。ちょっと、戦国武将の風格が出る。余計なものを飲ませたらただではおかん、という目である。だがそれに気付いたのか、信長は笑った。
意外と部下には寛容な、気配りの人だったことは知っている。榊は不思議と引き込まれた。
「フランスのチンダ酒・・・いや、ワインです。宣教師達が来た国の、ほぼとなりにある国です」フランスについて説明したら言葉が足りないだろう。美食の国。芸術と文化を大事にする国である。
ブルゴーニュのピノノワールを一口のみ、信長は感嘆した。
「うまい。みごとだ」信長は口にした。「飲み物が偉大であることを予は悟った。また、飲んだ自分までも、偉大な気持ちにさせてくれる。後味も長いし、真摯な気持ちになるし、また陶酔もする。酒に酔って、また別の意味でも酔える酒よ」
すごいな、こんなカンタンに言葉に出来るとは。サッと出るのが素晴らしい。
「心から感動した。本当に見事だ。これを創った作り手、そしてそなたに感謝をしたい」
榊は悟った。
本物だ。
この男は、本物の信長だ。
鎧を着ていなくとも。刀を差していなくても。間違いなく、天下を取る男だ。
「お時間を頂ければ、他のワインもあります」近くにワインショップがある。もう少し上等なものも出せるだろう。この男にならどんなに金が掛かってもいいという気になるのは不思議である。
信長は首を横に振る。そうか、さっき言ったな。
ギラリ。ちょっと恐い目になる。
「そなたはこの時代になって、まだ、異国のものを予に薦めようとするのか」
――はっ。
「この国のものを楽しみたい。いま創る予定だったものを創ってくれ。わしは、そなたを見に来たのだ」
榊は笑顔を作った。
「わかりました」
材料を多めに買ってきて良かった。
榊は、材料を出した。
榊のグラスが減ってきたので、ワインの瓶に手を出す。
「構わん。手酌で飲む」
「恐れ入ります」この風格。
「余り気を遣わんでよいぞ」
遣いますよ、そのオーラは。
餃子の皮、挽肉、キャベツ、調味料その他を出す。
聞かれる前に、言う。
「豚の肉を細かくしたものと、キャベツという野菜です」
「説明はよい。どうせ全部聞いてもわからぬわ」
「では料理の説明だけを。材料を皮に込めて、油で焼きます。火が出ますので、後ほどはご注意下さい」
「おぬしが食べる予定だった、その通りに創ってくれ」
・・・手間をどうかけるか考えていたのがバレたか。さすがだ。
包丁を取り出す。刃物だが、特に警戒はされない。
だかだかだかだかっ、とキャベツを千切りにする。
ここでキャベツに塩をすると時間が掛かる。水が出るのを待って切る時間が勿体ない。
挽肉にキャベツを混ぜたら、もう、胡椒、醤油のみで味付ける。
餡の出来上がりだ。
これを皮に包んでいく。水を付けて皮をつなげたらもう餃子だ。
フライパンに油を引く。餃子で塗るようにして広める。
火を付ける。信長の目が見開かれたが、それ以上は何も言わない。
少しずつ、裏を見ながら、焼いていく。
途中で、水を入れて蒸し焼きにする。
このとき、塩を入れる。ここで塩味を付ければ問題ないからだ。
餃子の水分がなくなったら出来上がりだ。2回焼く。
冷蔵庫から、もずく酢を出す。
グラスにレモンサワーを注ぎ、供する。
食事の時間だ。
「泡・・・!」その様子がなんとも可愛らしく、榊は笑いそうになる。
「少し酸味が御座います」
乾杯などはしない。その習慣はないからな。榊は少し寂しくなった。よく考えたら信長は客だから、まあ乾杯はしなくてもいいだろうと思ったのだが、
「乾杯しないのか?」
これにはしびれた。
そうか、宣教師がいたから、乾杯の習慣はあったのか。
榊は日本人で恐らく初めて信長と乾杯をした。
「酸い! だがうまい」
信長はレモンサワーを味わった。それから、もずく酢を食べて、「うまい」
それだけ言った。
「酸い物に、酸いものとは、よくも考えたものよ」
この人さすがだな。料理と飲み物の相性をすぐに見抜いたよ。
しばらく信長は、もずく酢を楽しんだ。箸の使い方がエレガントだ。
そして。
冷蔵庫からソレを出すとき、榊は身が震えた。
「ビールと言います」
信長にビールを勧めてしまった。
日本中の接待係がうらやましがるだろう。
だーっ、と、泡が出るように注いで、それが落ち着いたときに、また注ぐ。日本中で、誰もが知る美味しい注ぎ方である。
「一気に飲み干されることをお勧めします。苦みが美味しいのです」
「飲んで見せてくれるか」
榊は失礼します、と言い、飲み干した。自分で買ったビールなのに、何故か申し訳ない気がした。
ぷはーっ、うめえ、とは出来ずに、まじめくさって、「それではどうぞ」と言うのはなんか不思議な気がする。
信長は、おそるおそる、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
くわっ、と目が見開かれる。
「日々の疲れを癒す力があるな。下々の者から、華やかな場まで、全てに使えるだろう」
榊は餃子を取り出して、醤油と辣油、酢で作ったタレを渡した。
「先に召し上がって宜しいですか」信長は頷く。
榊は、タレに餃子を付けて食べた。
知らなければ、少なめに付けてしまうかも知れないからだ。榊はわざと多めに付けた。信長は確か濃いめの味付けが好きなはず。酢と辣油のみ、の組み合わせもあるが、さっきのレモンサワーにもずく酢で、酸味はある意味取っている。
信長は目を見開いて、榊をにらみつけるように見た。
ひっ、と思わず、あたまを下げようと思ったが、さすがに占い師としての経験でそれをこらえて笑顔を作る。
「見事だ」
「これは、私が、最初から食べようと思っていたものです」
そうして、500円の赤ワインを出す。
グラスを変えて、注ぐ。
「どうぞ。ビールではなく、赤ワインでどうぞ」
醤油の色と、赤ワインの色は近い。
信長はタレに餃子を付けて、赤ワインを飲んだ。
「西洋と東洋の、見事な和合よ」
ニヤリ、と笑った。
「しばらく味わっていて構わないのか」
「もちろんです」
「そなたも一緒に食べよう」ドラマで見る信長とはまるで違う、人なつっこい笑顔で信長は言った。
「おかわりをくれ」
信長はそれから、何も言わずに、榊を見る。
まだあるのか? と聞いている様子である。
榊はカマンベールチーズを出して、すすめた。
口にして、そのまま、赤ワインで合わせる。
「西洋の味噌のようなものか」
しきりにうまい、と言う。
しばらく、何も言わずに何か考え込んでいるようだった。
「この組み合わせは、そなたが考えたのか?」
「はい」
「日本人はこのようなものを毎日食べているのか」
「この組み合わせは誰でも真似出来ます。ですが、もずく酢、餃子、チーズの流れになると、恐らく皆無かと思います。もずく酢の後には刺身や焼き魚、餃子の後には明の国、今は別の名前ですが、麺を食べたり、焼いたご飯を食べたりしますし、チーズの前には西洋の食事を取ります」
「まったく違和感はなかった」即座に信長は、「気に入ったぞ。そなたの名前を聞こう」
ナントカの守とか、ないんだけどな。苗字と名前だけだ。「サカキング」とか呼ばれていたあだ名はやめよう。
「榊龍一と申します」
「龍一。茶はあるのか」
ズキーン。
あ、あの信長に!
お茶の話を振られた!
なっなんと!
無理してでも茶道具とか持ってくれば良かったかな。いや、この人の前では、日常手に入る道具ではちょっと満足してもらえないだろう。最低でも一点ものを揃えねば。
榊は、チョコレートを出して、コーヒーを薦める。
もう、言葉もなにもいらない。
しばらく、会話のない時間が続いた。
ふたりは、ただ、何も言わずに、静かにコーヒーを啜った。
席を立ち、信長は、「大義であった」
「ありがとうございます」
「再来週も、材料は多めに買っておいた方が良いぞ」
なんか、色々聞きたい気がする。
この人なら、歴史の闇に埋もれた真実とか、いまなら話してくれるんだろうか。
でも。
野暮だよな。
だから榊は、黙って頭を下げた。
なぜか、こんな言葉が口をついて出る。「・・・友人は龍と呼びます」
「ここを、龍喜庵と名付けよ・・・よいな龍」
榊は感動した。これ以上の名付け親がいるだろうか。
「お願いがあるんですけど」
「後に残るものは残ぬぞ」
はじめてからりと、榊は笑った。
「デアルカ、って言ってみてくれませんか」
二人は大笑いした。
「デアルカ。これでよいか」
「ありがとうございます」
「デアルカ」
信長が去った後。
榊は思いつきり洗い物をした。
ソファーで寝てしまえば、起きたときに、ひょっとしたら、1つだけの皿を見たくないから。
今洗ってしまおう。2つの皿と、たくさんのグラス。
全てを洗って、ソファーで時間まで休む。
まどろみの中、榊はふとこんな事を考えた。
次は、誰が来るんだろう。
つづく