365日のラブストーリー
「たしかに……」
 どうしてわざわざ宇美に、と思ってしまったのだが、有紗は理由を聞いて納得した。

リスクに対する備えということなのだろう。何もなければいいが、もし何かあったら人事部の人間は全員疑われることになる。

「それに、私に預けてさえおけば、何かあっても責任の所在がはっきりしてるもんな。色々と気が回るよなあ。やることなすことに何重もの意味があるなんて、彼にとってはごく普通なんだろうね」

「……宇美さん。神長さんの頭ってどうなってるんでしょう」

「さあね。でも、私の脳みそ四つ合わせても、彼になれないことは確かだね。いいねえ、綿貫は面白い人と仲良くしてもらえて。昨日、家まで送ってもらったんだって?」

 宇美は眼鏡の奥の目を細めた。

「あ、それは、会社までの通り道だからって言ってました」

 やることなすこと何重もの意味、という話を聞いたからなのか、送ってくれたことにももしかしたらなにかあるのではないかと思ってしまう。
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