365日のラブストーリー
(でも宇美さんに電話したのは、もし誰かに見られていて、変な噂が立ったとしても、そういう関係じゃないっていうことを証明するための、保険の意味もあるのかも)

 変な勘違いを起こしてはいけないと、有紗は頭の片隅にある淡い思いを打ち消そうとした。

「ま、会ったらちゃんとお礼しときなさいね」
「はあい」

「私コーヒースタンド寄ってくけど、綿貫はどうする?」
 駅前の混雑を抜けて、宇美が立ち止まった。

「わたしは大丈夫です。今日はお昼ご飯もお茶も家から持ってきたので」
「そっか。じゃあ財布は着いたらすぐに返すから」

「ありがとうございます」
 宇美と駅前で別れて、有紗はまっすぐ会社に向かう。

(電話、電話)
 相手が神長だとためらってしまうのはなぜだろう。けれど、こういうときには勢いが大切だ。

有紗はスマートフォンを取り出して、通話キーに触れる。コールを待つ間、頭の中が緊張の鼓動に支配されていく。
< 106 / 489 >

この作品をシェア

pagetop