365日のラブストーリー
「どうした、いつにもましてぼんやりしてるけど」千晃が耳打ちしてきた。
「ごめんなさい、昨日はなんだかよく眠れなくて」ささやき返すと、

「俺も。なんか今日が楽しみでさ」
 千晃の手が暗闇の中で有紗の手を探している。脚に触れられたときには何も思わなかったのに、それが手になった瞬間に、なにか大切なものを壊されたような気持ちになった。

 神長の手じゃない。ただそれだけが理由で人に嫌悪感を覚える自分の心が狭く感じて、有紗は手を握り返した。

 神長の手に触れると、心が繋がりあって、どこまでも自分が伝わってしまうような気がしていた。

肌に触れるということがどれほど特別なことなのか、昨日思い知らされたばかりだったはずなのに、千晃が相手だと手をつなぐという行為は、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 こちらの気持ちが、千晃に伝わっているようすはまったくない。そうすると、神長が自分にとって特別な人なのだという気持ちが膨れ上がる。
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