365日のラブストーリー
 室内に明かりが灯った。それまで椅子の上で縮こまっていた子どもたちがわっと外になだれ出て、それぞれの父母に話しかけている。
 微笑ましい気持ちで眺めていると、小さな手が有紗の手を握った。心暖だ。

「心暖ちゃん、長かったのにえらかったね。観てよかった?」
 有紗が訊くと、心暖ははにかみながらで頷いた。

 考えごとに夢中になっていて有紗自身あまりよく覚えていなかったが、大きな地震や火災が起きたときにどう対処するのか、過去の教訓が今にどう活かされてきたのかを伝える内容だった。

「心暖の行ってる保育園、毎月避難訓練やってるんだよな」千晃が歩き始める。
「おかしも、だよ。ありさちゃんしってる?」

 ほうれんそう、のように何かの頭文字を取った言葉かな、と予想がつくがすぐにはわからず、有紗は心暖に訊いてみた。

 押さない、駆けない、喋らない、戻らない、の頭文字を取った言葉らしい。聞いたこともあるような気もするし、初めて聞く言葉のような気もする。
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