365日のラブストーリー
「すみません、お待たせして。どうしましたか?」
 訊かれても、有紗はどう答えたら良いのかわからなかった。黙り込んでいると、
「いま、どこにいますか」

 何かを察知したように、神長は心配そうな声で尋ねてきた。温かな声をかけられて、張り詰めていたものがぷつりと切れた。有紗の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。堪えきれずにしゃくりあげる。

「おなかが……痛くて。ごめんなさい」
 言い訳のように揺れる声で伝え、有紗はぎゅっと唇を噛みしめた。

「綿貫さん、今からそちらに行きます。少しだけ待っていてもらえませんか」
「大丈夫です。落ち着いたら帰りますから」

「十五分もあれば着きます」
「えっ、なんでわたしの場所が」

「池袋駅の東上線ホームでしょう。発車メロディーでわかりました」
 有紗は息を飲み込んだ。

「……もしほんとうに俺の手が必要ないなら、ひとりで帰っていただいても構いません。とりえず俺はそちらに向かってみます」

 話しながらもう移動をし始めたのかもしれない。スピーカーの向こう側に再び人の話し声が聞こえてくる。

 どうしてこれほど親切にしてくれるのだろうか。素直に甘えることに罪悪感を覚えたとき再び痛みがこみ上げて、有紗は手のひらからスマートフォンを取り落とした。
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