365日のラブストーリー
7

「次の信号を左折でお願いします。コンビニが見えると思うので、その前で一度止めてもらえますか」
 耳元に聞き覚えのある声がする。頭が傾ぐと誰かの手が背中に触れて、有紗は身体を引き寄せられた。

(あ……、この香り)
 はっとして、有紗は瞼を押し上げた。
「大丈夫ですか」
 至近距離で整った顔と対面して、有紗の心臓がどくんと跳ねた。

 タクシーの後部座席から窓の外を眺めると、見覚えのある看板がある。もう自宅の近くだ。病院には行きたくないと、無理を言って帰ってきたが、いったいどのくらいの時間眠ってしまっていたのだろう。

「もう少しで着きます」
「すみません」

 ずっと神長にもたれていたようだ。有紗は身体を起こして、椅子に座り直した。腹部にそっと触れてみる。あれだけ痛かったはずなのに、今は大分落ち着いている。

「何度か電話が鳴っていました。もし、俺の他に誰かに電話をしていたなら、あとで連絡を入れた方がいいかもしれません」
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