365日のラブストーリー
「わかりました、ありがとうございます」

 そういえば、宇美の電話を鳴らしてしまっている。有紗は鞄の中に手を入れた。いつもの場所にない。そう思って探していると、神長が「そこに入れておきました」と探していたのと逆側の内ポケットを指した。

(……あ、森住さん)

 着信履歴は千晃から七件、その間に宇美からの折り返しが一件だ。有紗はちらりと神長の横顔を見た。プライベートののぞき見する気はないようで、視線を逸らしてくれている。

 まもなく自宅から最寄りのコンビニでタクシーは止まった。財布を出そうとして鞄をひっくり返しているうちに、神長がさっさと支払いを済ませてしまった。

とりあえずタクシーから降りる。体勢が変わったからか、胸の下が刺すように痛んだ。下腹も重く、千晃との行為の跡はひりひりする。

(わたし、ぼろぼろだ)
 有紗はなんだか、自分が惨めな存在に思えた。

「家の前まで一緒に行きましょうか」
 有紗の手からするりと鞄を取って、神長が顔を覗き込んできた。
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