365日のラブストーリー
「よかったです。少しほっとしました」
「え?」

「駅で会ったときは顔色が真っ青でした。手も震えていて、無理矢理にでも病院に連れて行くべきかと思ったのですが」

 曖昧になっていた記憶が色々と思い出されてくる。駅でどうにもならないほど体調が悪くなり、いよいよ人だかりが出来てしまったとき、それをかき分けて助けに来てくれたのが神長だった。

潮が引くように人が去って行ったのは、きっと神長が病人を安心して任せられる人に見えたからだ。あらためて神長を見つめてみる。

「ゆっくり歩きましょうか」
 どんなときでも変わらぬ優しさを向けてくれる神長に、罪悪感を覚えながら頷いた。

「すみませんでした、神長さんだって用事があったのに。わたしなんかのせいで」
「ちょうど帰るところだったので、気になさらずに。……生理痛ですか?」

 周りに誰がいるわけでもなかったが、神長は抑えた声で訊いてきた。

「いえ、生理はもうちょっと先………のはずなので、違うかと。胃痛、かな? わたしもはっきりとどこっていうのがわからないんですけれど」

 下腹の痛みも気になってはいたが、さすがに黙っておいた。
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