365日のラブストーリー
「大丈夫ですか」
神長から訊かれて、有紗は唇を噛みしめたまま頷いた。こんなときに何も言わずにただ泣くのはずるい。心配してここまできてくれた千晃を責めているようになってしまうからだ。
神長は何を思っただろう。千晃と会っていたことはバレてしまい、仕事仲間でもある二人の関係だってどうなってしまうかわからない。
「ごめんなさい」
誰にも何も言い訳できないまま、有紗が千晃のところに向かおうとすると、神長から腕をぐっと掴まれた。
「綿貫さん。ただでさえ具合が悪いのに、ここで立ち話をしていては、治るものも治らなくなってしまいます。今日はよく身体を温めて、ゆっくり休んでください」
「でも……」
「俺が話をしてみます。幸い、時間ならありそうですし」
穏やかな口調の裏に、有無を言わせぬ強さを感じる。神長の手のひらが、ぽんと有紗の頭に乗った。優しさに、有紗の胸は潰れてしまいそうだった。
有紗は鞄を受け取って、深く頭を下げた。ありがとうございますという言葉すら軽々しく感じてしまい、何も言えなかった。
「有紗ちゃん」
呼びかけられて、有紗は振り向いた。千晃は感情の奔流を押さえ込もうとするように、ぐっと手のひらを握りしめている。